○米子市中小企業振興条例
令和2年3月27日条例第12号
米子市中小企業振興条例
本市は、鳥取県の西部、山陰のほぼ中央に位置し、中国地方最高峰の大山の麓で日本海と中海に囲まれた自然豊かな街である。古くから交通の要衝であった地の利を活かし、江戸時代から商業が発展し、「商都米子」としての地位を築いてきた。令和の時代に至る今日まで、多くの事業者が当地の経済を牽引してきたが、その業種・業態は様々である。
江戸時代における(かい)船問屋を中心とする海運業や明治時代後期の日本国有鉄道山陰本線の開通は、当地に大きな経済波及効果をもたらした。その後、昭和時代には大手企業の紡績工場や縫製工場、あるいは製紙工場が当地に新設され、下請企業を含む関連産業が当地の経済を牽引した。アーケード商店街が多くの買い物客でにぎわったことは、「商都米子」を象徴する風景であった。また、大正時代に整備が始まった皆生温泉は、現在も本市を代表する観光地として幅広い業種に波及効果をもたらしている。
一方で、大きな工場の撤退や長く親しまれてきた小売店舗の閉鎖が、本市の経済に不安定感と先行きの不透明感をもたらしたのも事実であり、こうした事案をいかに乗り越えるかも本市の経済政策の大きなテーマになってきた。
こうした一連の歴史の中で、常に本市の経済の重要な基盤として貢献し続けてきたのは、本市に根を下ろし、本市を中心に事業展開をしてきた地場産業であり、その担い手の多くは中小企業者・小規模企業者であった。今後も本市の経済が持続的な発展を遂げていくためには、中小企業者・小規模企業者の振興が必須であり、それをいかに果たしていくかが重要な政策課題である。
人口減少期にある地域経済の課題は、企業の生産性向上である。生産年齢人口が今後も減少を続ける見通しの中で、企業が持続的な発展を遂げるためには、収益基盤を拡大し、少ない人数でも十分な成果が得られるよう生産性を向上させることが欠かせない。1990年代のバブル経済の崩壊から、2008年のリーマンショックを経て、地域の中小企業者・小規模企業者は「失われた20年」ともいわれる厳しい時代を生き抜いてきたが、その間、企業の合理化努力により市民の暮らしの向上が十分に成し遂げられたとはいえない。
この度、米子市中小企業振興条例を制定し、地域に根差した地場産業の持続的な発展を図る大きな目的は、当地の中小企業者・小規模企業者の経営基盤を強化し、そのことをもって、賃金の上昇を含む市民の暮らしを向上させることにある。市は、こうした目的を地元事業者及び市民と共有し、施策を総合的に推進するため、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、中小企業者・小規模企業者が本市経済において果たす役割の重要性に鑑み、中小企業者・小規模企業者の振興に関する取組の基本となる事項について定め、もって本市経済の活性化及び市民生活の向上に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 中小企業者 中小企業基本法(昭和38年法律第154号)(次号において「法」という。)第2条第1項に規定する中小企業者に該当するものであって、市内に事務所又は事業所を有するものをいう。
(2) 小規模企業者 法第2条第5項に規定する小規模企業者であって、市内に事務所又は事業所を有するものをいう。
(3) 中小企業者等 中小企業者及び小規模企業者をいう。
(4) 中小企業支援団体 商工会議所、商工会、中小企業団体中央会その他の中小企業者等に対する支援を行う団体のうち、市内で活動するものをいう。
(5) 金融機関 銀行、信用金庫その他の金融業を行うもの及び信用保証協会であって、市内に事務所又は事業所を有するものをいう。
(6) 教育機関 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校その他の教育、学術等に関する事業を行う機関をいう。
(7) 市民 市内に居住し、勤務し、又は通学する者及び市内に土地又は建物を所有する者をいう。
(8) 地産外商 本市企業が提供する製品、商品、サービス及び技術を市外に発信し、売り込む取組をいう。
(基本理念)
第3条 中小企業者等の振興は、中小企業者等が地域社会において果たす役割の重要性を認識するとともに、次に掲げる事項を基本理念として推進されなければならない。
(1) 本市経済の発展並びに市民の雇用の確保及び生活の向上に資すること。
(2) 経済環境の変化や経営課題に対応しようとする中小企業者等の自主的な努力を活かした事業を促進すること。
(3) 国、県、市、関係地方公共団体(県を除く。以下同じ。)、中小企業者等、中小企業支援団体、金融機関及び教育機関は、相互に連携し、事業を促進すること。
(米子市中小企業者等振興行動計画の策定)
第4条 市は、この条例の目的を達成するため、市及び関係機関が取り組むべき施策を明らかにした米子市中小企業者等振興行動計画(以下「アクションプラン」という。)を策定するものとする。
2 前項のアクションプランは、次の各号に掲げる事項を重要課題と位置付け、策定するものとする。
(1) 中小企業者等の事業活動に必要な人材の育成及び従業員の賃金向上を含む労働条件の改善により、雇用の創出を図るとともに、人材の定着を図ること。
(2) 商品やサービスの付加価値を高めることによる売上の向上及び適切な投資による生産性の向上により中小企業者等の競争力強化を図ること。
(3) 経済環境の変化に対応し、海外展開を含む、中小企業者等の地産外商の促進を図ること。
(4) 新規創業及び新事業展開、並びに事業承継の促進を図ること。
(5) 前各号に掲げるもののほか、条例の目的を達成するために必要と認める事項
3 市は、アクションプランの策定に当たっては、中小企業者等、中小企業支援団体、金融機関及び教育機関の意見を聴く機会を確保するとともに、アクションプランの実施状況について検証を行い、必要な見直しを行うものとする。
(市の責務)
第5条 市は、基本理念及びアクションプランに基づき、中小企業者等の状況把握に努め、中小企業者等の事業の持続的な発展に向けた施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。
2 市は、前項に規定する施策の策定及び推進に当たっては、国、県、関係地方公共団体、中小企業者等、中小企業支援団体、金融機関及び教育機関と協力して、中小企業者等が事業を円滑に運営することができるよう努めるものとする。
3 市は、工事の発注並びに物品及び役務の調達に当たっては、予算の適正な執行並びに透明かつ公正な競争及び契約の適正な履行の確保に留意しつつ、中小企業者等の受注の機会の確保に努めるものとする。
4 市は、中小企業者等の振興を推進するため、積極的に経済情勢等の情報を収集し、その提供に努めるものとする。
5 市は、中小企業者等の振興に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるものとする。
(中小企業者等の役割)
第6条 中小企業者等は、基本理念及びアクションプランに基づき、経済的環境の変化に即応して自らの事業の発展を図るため、経営の向上及び改善に取り組み、競争力の強化に努めるものとする。
2 中小企業者等は、雇用環境の改善及び向上を図り、雇用の確保及び人材の育成に努めるものとする。
3 中小企業者等は、その保有する経営資源を活用し、適切な投資で最大の成果を生み出すよう努めるものとする。
4 中小企業者等は、地域社会を構成する一員としての社会的役割を自覚し、地域社会との調和を図り、より良い地域社会の実現に貢献するよう努めるものとする。
5 中小企業者等は、中小企業支援団体の役割を認識するとともに、互いに協力し、本市経済の発展に努めるものとする。
(中小企業支援団体の役割)
第7条 中小企業支援団体は、基本理念及びアクションプランに基づき、地域社会を構成する一員としての社会的役割を自覚し、中小企業者等が行う自主的な経営基盤の強化及び生産性の向上をはじめとする経営の改善及び革新を図るための取組を積極的に支援するとともに、市が推進する中小企業者等の振興に関する施策に協力するものとする。
2 中小企業支援団体は、中小企業者等の振興に積極的に参画するとともに、中小企業支援団体が保有する知見に基づく情報提供、分析、提案等の協力を行うことにより、中小企業者等の経営努力及び成長を支援するものとする。
(金融機関の役割)
第8条 金融機関は、基本理念及びアクションプランに基づき、地域社会を構成する一員としての社会的役割を自覚し、中小企業者等の振興に積極的に参画するとともに、金融機関が保有する知見に基づく情報提供、分析、提案等の協力を行うことにより、中小企業者等の経営努力及び成長を支援するよう努めるものとする。
2 金融機関は、中小企業者等の事業内容及び経営課題を把握し、中小企業者等に対し、最適な課題解決策を提供することにより、企業価値の向上が図られるよう努めるものとする。
(教育機関の役割)
第9条 教育機関は、基本理念及びアクションプランに基づき、地域社会を構成する一員としての社会的役割を自覚し、次世代を担う学生、生徒及び児童に対し、教育活動を通じて、起業、創業、勤労及び職業に対する意識の啓発並びに中小企業者等が果たす役割等に対する理解の促進に努めるものとする。
2 教育機関は、中小企業者等の研究開発及び技術の向上を図るための支援並びに市が推進する中小企業者等の振興に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(市民の理解及び協力)
第10条 市民は、中小企業者等の振興が本市経済の発展及び市民生活の向上に果たす役割の重要性並びに中小企業者等の健全な発展に理解を深め、市が推進する中小企業者等の振興に関する施策に協力するよう努めるものとする。
附 則
この条例は、公布の日から施行する。